言葉の囚われからの解放 -3歳息子との実践から学んだこと-
私は今、3歳の息子の子育ての真っ最中です。
いわゆるイヤイヤ期、まさに「日々悪戦苦闘」という言葉がぴったりの毎日です。
先日、何がきっかけだったのかも分からないまま、風呂上がりに息子が大泣きして泣き叫ぶ場面がありました。
夫婦で「大丈夫だよ」「落ち着こうね」と声をかけていましたが、息子はむしろヒートアップしていくばかり。
すると突然、涙をためたまま「落ち着かないの!」と叫びました。
私はその時、以前から試してみようと思っていたアプローチを、そっと実践してみることにしました。
①「落ち着かない」の解体
まず私は、息子の言葉をそのまま繰り返してみました。
「落ち着かないんだね」
その時、声のトーンや速さを少しずつ変えてみました。
例えば、ちょっと早口で言ってみたり、ゆっくり優しく言ってみたり、
ドラえもんのような口調で言ってみたり。
不思議なことに、息子はそのやり取りを繰り返すうちに、少しずつ落ち着きを取り戻していきました。
これは、単なる気休めではなく、「落ち着かない」という言葉を"音"として聞き直す体験を促していたのだと思います。
言葉は、発し方や受け取り方によって、意味や感じ方が変わるものです。
その「ズレ」に気づくことは、私たちが言葉の呪縛から一歩離れるための大事なきっかけになるのです。
②「考え」からの解放
さらに私は、息子にこう返しました。
「◯◯くんは、"落ち着かない"と考えているんだね」
「落ち着かない」という言葉に、あえて「考えている」という一言を添えたのです。
私たちはよく、「自分はダメだ」「つらいことばかりだ」と感じると、それが自分そのもののように思ってしまいます。
けれど、それはあくまで「そう考えた」という一つの思考に過ぎません。
例えば、お風呂に入っている時、私たちは湯船に浸かって体が温まります。
でも、私たち自身がお湯そのものになったわけではありませんよね。
どれだけ浸かっても、私とお湯は別の存在です。
「自分はダメだ」という考えも同じです。
それに浸かっているように感じても、それが自分そのものではない。
これに気づくことが、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)でいう「脱フュージョン」の第一歩です。
「◯◯くんはそう考えているんだね」と返したこの一言も、息子がその考えから少し距離を取るきっかけになったように思います。
③ 向かいたい方向に進む
そして最後に、私は「お母さんを優しく抱っこしてみようか」と促しました。
この時、息子は妻にしがみつくようにしていたので、その流れを活かして、安心できる人とのつながりを意識づける言葉を選びました。
これはACTで大切にしている「価値(バリュー)」にも関わるアプローチです。
価値とは、その人が「どう生きていきたいか」「どんなふうに在りたいか」といった、人生の方向性のことです。
例えば、会社には「美味しさを届けたい」といった理念があるように、
私たち一人ひとりにも「人とつながって生きたい」「大切な人を守りたい」といった価値があります。
大事なのは、言葉に振り回されるのではなく、その価値に沿った行動を選び続けることです。
息子が「落ち着かない」という思いから少し離れ、
大好きな人に優しくくっついて安心する――
そんな小さな体験の積み重ねが、これから先、
息子自身が人とのつながりや、自分の価値を選び取る力を育んでいくのだと思います。
おわりに
子育ても、人間関係も、そして自分自身との付き合いも、
私たちは日々、言葉に支えられ、時には囚われながら生きています。
「考えは考えに過ぎない」と少し距離をとって眺めてみること。
「本当に大切にしたいこと」に目を向けてみること。
それだけで、少しだけ生きやすくなる瞬間があるかもしれません。
こうした視点は、誰でも日常の中で少しずつ実践することができます。
ですが、一人では難しいと感じるとき、誰かのサポートを借りることも、大切な選択肢の一つです。
私たちのセンターでも、ACTの考えを取り入れたサポートを行っています。
関心のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。